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「――ッちょっと。皆島……」
皆島は、驚いたサエギの眉間を人差し指で強く突いた。
咄嗟にサエギが目を瞑る。
「お前だけなんだよな。俺が見えない奴って」
「……知らないよ」
「おい。目ぇ開けろ。紛い物に負けたいかてめえ」
「何のこと何のこと! どうしていきなり怒るかな! 怖くて開けられませんッ」
「開けろ」
「目ぇ突かないか?」
「突くかよ」
サエギはそっと目を開けて視線をふらふらと漂わせた。
視界に入った目隠しをたぐりよせて子細に眺めていると、皆島に頭をはたかれる。
「痛いっ」
「お前、俺が声だしたり物動かしたり手足ださなきゃ俺がどこにいるのか分からないんだろ」
「そう……だね。そうだよ。見えないんだから、当たり前だ」
「馬鹿。見てる方向が全然違う。コンポ見てろコンポ」
サエギが視線をとんちんかんな方向から、皆島に言われた通りコンポへと向ける。
サエギには見えていないが丁度サエギの真正面には複雑な顔をした皆島がいた。
しかし彼らの目は、決して合うことはない。
サエギは皆島の向こうにあるコンポを見据えているだけだった。
「この。紛い物以下め」
小さく呟いた声にサエギは体を震わせた。そして悲しそうに視線を下げ、ため息を吐く。
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