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「まじかよ! お前やるなあ」
真ん中にいた一番ちび、井先が皆島の肩を叩く。
「えっ。全バツって投票にカウントされないんだよな。さてはお前間違ったんじゃねえのか」
井先を挟んで影の一番長いのっぽ、加ヶ利が上から目線で皆島をからかう。
「んなわけあっかよ、お前らじゃあるめえし」
「はあ? 何ちゃっかり俺含んでんの。加ヶ利だけにしとけよ」
井先はまた皆島の肩を違う意味で叩く。
ごく普通の会話。
ご近所を憚らない声で談笑。
その声は随分前から近くの公園まで届いていた。
サエギはそこで黒い猫と戯れていたのだが、聞こえてきた少年たちの声に聞き知ったそれを拾う。
サエギは黒猫を一撫でしてから公園の入口で彼を待っていた。
皆島の声がいつにも増して大きいことにサエギは複雑な顔をしていた。
一部始終だが、学生の会話というものを聞く。
何気ない会話と大げさな笑い声。
道の角から声の主が現れた。
凸凹二人組。
しかし声の種類は三つ。
サエギはやはり、皆島を見ることができなかった。
それはずっと前からのことだ。
現状は何も変わっていない。
しかしサエギはいつも以上の悲しみを味わった。
彼が以前皆島に言った「虚しい」という言葉が今、サエギの心にこだましていた。
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