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「おい」
「……何?」
「本当に女々しい奴だな」
否定の言葉はない。
サエギ自身それを認めたからだ。そのことに皆島は気づき、このネタはもう使えないと悟る。
「俺は、結局正確にお前の正体がが何なのか分かっていない。それでも分かったふりをしていたのかもしれない。お前と違って、俺はお前が見えるからな」
皆島は饒舌になってサエギに語りかける。
「この意味の分からなさはそこにあるのかと思ったが、そうでもないんじゃないか。と俺は思う。いやついさっき思った」
「……うん」
小さな相づち。
それに促されるように皆島は続けた。
「とは言ってもまだ曖昧で分からないことだらけだ。俺は現状に満足している。お前という捌け口があるからな。そしてお前は? 何か吐き出したいことがあるんじゃないか」
珍しい紫色の空の下。
ここまで真剣なことを話す経験を過去、したことがあるだろうか。
印象に残らない風景はいらない。
できる限りの無駄やささいなこと、小さなエッセンスを切り捨て、言葉の空気のみを感じて生きていた彼らはロマンチストかそうでないのか。
人の機微に長けているのかと思えば、そうでないことに打ちのめされた。
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