三つ目

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「……君の本音を知っている。君の友人よりも、いやもしかしたら君の親よりも君と長い時間を過ごしている。喧嘩もよくする。他の誰もが知らない君を知っているし、その君とよく会話をした」  皆島はまたぎょっとした。  どかんの中から聞こえる声は響くが、どこかこころもとない。 「遠くからでも君の声を聞き分けられる、この僕が……その僕が!」 「サエギ」 「どうして君の友人を見ることができて、君を見ることができないんだ! 意味が分からないのは僕の方だ」  サエギの言葉が放たれたと同時に、彼らは彼ら自身、他人の機微に疎いということを再度明確に気付かされた。  その上、人の概要またはレッテルがなければ対照を推し量ることすら難しいことを悟る。 「吉北菜子が良い例だ」  サエギは呟く。  皆島は何かに気づいたように、はっとした表情になる。しかしおしだまり、言葉にはしない。 「サエギ、帰るぞ」  途端にサエギが笑う。 「こんなに優しい皆島は知らないな」 「俺もだ」  皆島は顔だけで笑う。  しかしどかんから這い出たサエギに嫌悪の表情を向けた。 「え。何で何で。どうしてそんな怖い顔してるの!」  サエギは恐怖のあまりにもう一度どかんに身を隠そうとした。  皆島はそれを見て口をひきつらせた。 「今すぐその化け物を拾った所に返してこい!」  サエギの腕には先ほどの黒猫が抱かれていた。  そして皆島は吉北菜子よりも何よりも、猫が大嫌いだった。
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