一つ目

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「何だか皆島(ミナシマ)は僕と一緒に居る時だけ随分ご機嫌じゃないか?」  買い集めた本を並べ直していた皆島は、その言葉に振り返る。  部屋に響いていた小さな鼻歌がやんだ。  つくられた静けさは、皆島が、持っていた本を戸棚に置く音で途切れた。  皆島はそうして自然に元の動作に戻るが、一点、先ほどと表情が違う。  嘘のように笑んでいた。 「これが、ご機嫌じゃなくしていられると思うか、サエギ。俺はまったく楽しくて仕方がないよ」  サエギは皆島の演技がかった言葉とその口調に、見開いた目を何度かしばたいていた。  それからふっと彼の緊張が解かれる。  皆島はそれを、戸棚の扉にはめこまれた鏡で見て、更に笑んだ。  あらかた整理された戸棚を満足げに見やり、並んだ本の背表紙を一通り指先で押し込む。  ばちりと音が鳴るまで両扉を閉め、また改めて皆島はサエギに向き直り口を開いた。 「何でなのか聞かないのか。俺がご機嫌な理由」  サエギは目を閉じる。 「聞いたってどうせはぐらかされるか答えてくれないか、または……」  少しの沈黙。  破るのはやはり皆島。 「……なんだよ」 「皆島、さっきとうってかわって声が怖くなった」 「素直に言わないからだろ」 「そっくりそのまま返そう。君は素直に僕の質問に答えてくれないだろ」  論点が変わった事に眉を寄せた皆島だが、すぐに無表情になり、しらっと返す。 「聞かないのがまず悪いと思わないか。聞かれたら俺だって答えたかもしれないぜ」
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