一つ目

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 サエギは目を閉じながら、酷く調子が悪そうに顔を歪めた。 「それは……。皆島。君は本当に酷い奴だな」 「どこが。事実だぜ。満場一致の正論だ」 「君の言う満場が一体どこを指すのか言及しないでおくけど、一言言わせてもらおう。僕はね、その『言わなかったのが悪い』ってセリフやその考え方が凄く嫌いだ。僕はそれを正論とは認めない。ただの無神経からくる責任転嫁の常套句じゃないか」 「知ってる」  サエギが畳み掛けるように力説しようとしたそばから、皆島が一刀両断する。  皆島の声はすでに明るい。  サエギははっとして口をつぐみ、殊更嫌そうに顔をしかめた。  元の歪めた表情より幾分冗談をはらんだサエギの「嫌そうな顔」に、皆島が堪えきれなかった笑い声をもらす。 「楽しいな本当に。他人をここまでコケにできるなんて。知ってるか? 見ていて飽きない奴なんざザラに存在しちゃいねえ。しっかしお前は……あれだ、貴重種」  サエギはテーブルに肘をつき、両手で隠すように顔を覆った。 「……酷い。酷すぎる。皆島のご機嫌はそこに起因していたわけか」 「気付かなかったのか? 今まで? 一度も?」  からかう皆島にサエギはガクっと一度頷く。 「変だなとしか思わなかった。まさかそんな悪趣味な性格をしているとは」 「思ってたよな」 「……実際思ってました」 「酷え奴だな」 「どっちが!  僕は君を見ることができないんだよ!  それを面白がるなんて、悪趣味も甚だしい!」  とうとう声をあらげてしまったサエギを更に皆島は笑いとばした。 「マグカップに言うセリフじゃねえだろっ」  サエギは皆島の姿を見ることが叶わないために、目の前に置かれたマグカップを見据えていたのだ。
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