一つ目

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 マグカップにはアイスココアが注がれていた。  水面に浮かぶ塵にサエギは余計に苛立つ。 「君はまさかこのココア、僕が飲めないことを承知でだしたんじゃないだろうね」 「承知ですがそれが何か?」  サエギはふて寝した。  それを見た皆島は至極ご満足のようだった。  たった一つでも、彼の気にくわないことがあれば彼は倍返しにすることもいとわない。  本の並びがタイトルの五十音順だとして、それが皆島の気に障ったのならば、彼は労力を惜しまず作家の五十音順に直す。  逆に自分の気に入ったものはそれを向上させるために動く。  サエギが飲めないと分かっているのに何か飲み物を、さも、もてなしたかのように置いてみる。  そして始めから飲めないと分かっているのだから本の整理の際に埃が出て、飲み物に混入しても一向に構わないのだ。  不愉快になるサエギを見て愉快になるのは皆島だった。  皆島はふて寝したサエギの頭を邪魔だとばかりに足で押しやる。  そしてそばに丸まって落ちていたタオルケットを無意味にサエギの頭にかけた。  「酷い酷い」と喚くサエギを「黙れ」と肘で押さえつけて、皆島は途中までだった鼻歌を再開させた。 部屋には静かな鼻歌がこもる。 「ご機嫌だよな」  サエギの不機嫌なくぐもった声。  上機嫌の皆島は答えず、鼻歌に一言口ずさむ。 「Bcause……indebted to you for my life……」
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