二つ目

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「……そこで。錯覚、もとい思い込みが相手にとっても自分にとっても誤解や食い違いのマイナス的要因を生むんだ。こんなことを言う人ではないと思っていた。そんなことをする人ではないと思っていた。言動についての意味を理解できない。理解できないことに恐れた人は恐れの対象から遠ざかる。そして相手を卑下することによって自分の安全圏を確認したり確保したり――」 「喋りすぎだ馬鹿。もういい。いい加減うるさい」  皆島がサエギの前髪を引っ張る。そして黙りこんだ青白いサエギの顔を睨む。 「そこまで言われなきゃ分からねえような阿呆だと思われてんのか俺は」 「思ってない」 「ああ。そうだろうよ。お前は俺が見えねえんだから勘違いするはずがないもんな」  語尾はあっけらかんとした軽い調子で締めくくる。  皆島は掴んでいたサエギの前髪を離し、しきりに回していた黒ペンのキャップをはずす。  軽い音にサエギは体を揺らした。ほんの少しだが背筋が反っている。後ずさらんばかりのサエギに皆島は笑いかける。  サエギには見えない。しかし雰囲気は感じる。なんとなく皆島が怖いほど優しい表情をしているだろうことを。  皆島ががっしりとサエギの肩を掴んだ。
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