第一章

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  太陽で赤く染め上げられた森の中を、7、8歳の少年が走っている。 やや不規則な足音に、乱れる息。それでも少年は足を止めようとはしない。 「わっ!」 しかし不意に疲労しきった足を樹の根に引っかけ転ぶ。立ち上がろうと腕に力をいれ身体を起こしたとき、背後から低い唸り声が聞こえた。 とっさに振り返る少年。目に映るのは数メートル先にいる、体長2メートルほどの熊。 赤い瞳、剥き出しされた黄色い歯。 少年は立ち上がろうにも足に力が入らず、這うようにして逃げる。が、突然右腕に痛みが走った。 「いっ……!」 予想外の痛みに腕を見ると、血が流れ出る15センチほどの切り傷が。 動かない足に、傷ついた右腕。逃げる術を失った少年はなんとか身体を上に向け、涙を溜めた大きな瞳で“ソレ”を睨み付けるが効果はない。 次第に縮まる距離。“ソレ”は鋭い爪の付いた腕を振り上げる。少年は、本能的に目を強くつぶり、腕で頭を庇う。 涙が頬を流れた。
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