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「望、今日は一緒に帰れるか?」
放課後。
鞄に持ち帰る物を詰めていると、身支度を終えた圭吾が声を掛けてきた。
「…あれ?言ってなかったっけ?今度の日曜日に大会があるから、僕は遅くなるよ…って」
「あぁ…そんなこと言ってた気がするなぁ…。待っててもいいけど、見たい番組があるから…悪いが先に帰る」
「部活は?」
「…やらん。行っても暇だし」
「行けばいいのに…」
圭吾は、写真部と美術部の掛け持ちをしている。
『自然と人物』をテーマに、とてもキレイな写真を撮る。絵も自然をテーマに、繊細で柔らかい描写で…。
絵・写真ともに優しい雰囲気があり、僕は圭吾の作品が大好きだ。
でも、圭吾はあまり部活に顔をださない。
本人曰く、気の向くままに『これだ!』と思った瞬間、写真のシャッターを押したり、絵にとらえたりするため、毎回行っても無駄だという。
圭吾らしいといえば、圭吾らしいけど…
「まぁ…そういうわけだ。先に帰って、ドラマの再放送でも見るわ」
圭吾は僕に背中を向け、出入り口へと向かう。途中で僕の方を振り向くと、
「あぁ、そうだ。今日から両親がまた海外に行っちまったから、夜、お前んちで世話になるから。…じゃ~な」
そう言って大きく手を振ると、教室を出ていった。そんな圭吾の姿を見て、僕はクスッと…笑う。
(見たい番組ってのは…照れ隠しか…)
圭吾には、年の離れた弟・妹がいて…。いつも圭吾が世話をしている。
親が仕事の関係で海外に行ってしまうと、学校からすぐに帰って、2人の世話をしている優しいヤツだ。そういう優しさが、絵や写真にでているのかもしれない。
「お~い、望!部活、行こうぜぃ」
教壇近くにいた陸上仲間数人が、僕に向かって大きく手招きをしている。
「今、行く」
僕は鞄とスパイクを持って、仲間のところへと走っていった。
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