第2章

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費仲はひれ伏して答えた。 「商容殿の諫言を即座にお聞きいれになったのは、陛下の美徳で御座います。この事は臣下や民百姓全てが知っており、天下は陛下の品行を敬っております。もし今この件をもう一度だすと、信用を失う恐れがありますので、それはやめておいたほうが宜しいでしょう。私が最近耳にしたところでは、冀州侯蘇護には娘が1人いるそうですが、これが絶世の美女で、しかもとてもたおやかな乙女だという話です。この娘を宮中に入れ、お側にお仕えさせれば、1人の娘を選ぶだけですから、天下の民を騒がせる事もなく、人々の注意を引く事も無いと思いますが」 紂王はこれを聞いて、大きく顔をほころばせた。 「おお、その通りだ!」 ただちに随侍官が、蘇護を命令を伝えた。 使者が宿泊場に来て伝えた。 「冀州侯蘇護殿、陛下が国政について相談があるとか。ただちに宮中へ参内して下さい」 蘇護は使者に従って竜徳殿(リュウトクデン)に参内し、紂王に拝礼して、ひれ伏して言葉を待った。 紂王は口を開いた。 「聞くところによると、卿には品行しとやかで、礼儀正しい娘がおるそうだな。そこで、わしはその娘を宮中に迎えようと思うのだ。そうなれば卿の身は皇族。天禄と地位を手にして、冀州の守りも安泰。我が世を楽しみ、名を四海に馳せる事となり、誰もが卿を羨む事になるだろう。どうかな?」 蘇護はこれを聞いて、厳しい顔で答えた。 「陛下の後宮には上は后妃から下は宮女まで、合わせて1000を下らぬ美女がおりますのに、それでも満足なさらないのですか?左右の小人(ショウジン=心が狭い者)のへつらい事をおとり上げになっては、陛下が不義のそしりを免れぬ事になるでしょ。わたくしの娘は身分卑しく、とり立てて取り柄もない不作法者。品行、容貌いずれも言う程のものではありません。陛下、どうか天下の大事にお心をお配り下さい」 紂王は笑って言った。 「そう堅い事を言うものではない。昔から今に至るまで、娘を道具に栄達をはかるのは当たり前の事。ましてや天子の后妃だ。卿の娘は高貴な身となり、卿自信も天子の外戚となる事が出来るのだ。こんなありがたい事が他にあるか?」
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