第2章

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蘇護はこの言葉に思わず大声を上げた。 「君主は、品行正しく国事に尽力してこそ、民が服し、自ら従い、また天の恵みも末長く続くというもの。その昔、夏(カ)の政治が腐敗し、君主が酒色に溺れた時、我が商の開祖だけは酒色に染まらず、私財を備蓄せず、品行正しき人を登用し、功績は正しく褒賞でねぎらい、寛大仁慈である事に努めました。その結果、夏を倒し、民の信を受けて国は栄え、天の与えた権力を今に至るまで保っているのです。今陛下は、ご先祖様には学ばず、何と亡国の夏の桀(ケツ)王にならっておられる。これが滅びの道で無くなるでしょう。君主が色を好む時その国は滅び、大夫(タイフ)が色を好めばその一族は滅び、庶民が色を好めばその身は滅びるとと言います。君主は臣下の手本ですから、君主の行いが道に背いていれば、仕える者達も共謀して悪事に走り、天下の大事など誰も顧みなくなるでしょう。商朝600余年の偉業も、陛下の手によって終焉を迎える事になりかねませんぞ!」 紂王は蘇護の言葉にカッとなった。 「君主が来いと言えば、馬車の支度を待たずにただちに参上する。死を与えれば、はいと言って死ぬのが臣下というもの。それを娘を1人を后妃に差し出す事が出来んとは何事だ!愚かな屁理屈でこのわしにたてつき、亡国の君主呼ばわりするとは!無礼不敬にも程があるわ!」 そして随侍官に命じた。 「こやつを午門から叩きだし、法司に引き渡して処刑せよ!」 蘇護はたちまち取り押さえられた。すると、費仲、尤渾の2人が進み出て、付して奏上した。 「聖旨に逆らった蘇護に、処刑は当然の処置。しかし、処刑の理由が娘を後宮に入れるのを拒んだ為と天下に知れ渡れば、民は陛下の事を賢臣を軽んじ色を好む、わかまま非道な君主と言い立てるでしょう。ここはひとつ、この者の罪を許し帰国させる事です。そうすれば、こやつもその恩に感じて自ら娘を宮中に送り、陛下にお仕えさせる事でしょう。民百姓も陛下が臣下の諫言を受け入れ、功ある臣下を大事にする寛大なお方だと思うでしょう。これぞ一石二鳥というもの。陛下、是非この様になさいませ」
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