第2章

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紂王は納得し、いくらか怒りを鎮めた。 「ではその様にしよう」 蘇護の罪は許され、ただちに朝歌を去らせる事になった。 蘇護が朝廷を辞して宿に戻ると、家来達が出迎えてたずねた。 「天子が将軍をお呼びになったのは、何のご相談だったのですか?」 かんかんになった蘇護は、口調も荒く罵った。 「無道な昏君(フンチュン=愚かな君主)!ご先祖の偉業も考えず、わしの娘を后妃にしたいなどと言うのだ。これもきっと費仲、尤渾辺りの企みだ。酒色で君心を惑わし、朝廷の実権を握ろうというのだろう。わしは聖旨を聞いて、つい率直にお諌めしたのだが、あの愚かな紂王は、聖旨に逆らったと言って、わしを法司に引き渡そうとした。その時、またも例の2人がしゃしゃり出て、わしの罪を許して帰国させるよう進言した。きっと、命を助けられた恩返しに、娘を後宮に入れると考えての事だろう。そうなれば、やつらの思うつぼだ。遠征中の聞太師の不在をいい事に、あの賊臣らが権力をいいようにし続け、愚かな天子が酒色に溺れて、朝政が乱れてるのは火を見るより明らかだ。かと言って娘を宮中に送らぬば、昏君は必ず軍を出してわしの罪を問うだろうし、もし娘を献げれば、昏君が道を踏み外したあとで、わしは愚か者だと天下の笑い者になるだろう。一体どうするべきか、良い考えがあったら言ってくれ。“君主が正しからざるときは、臣は他国に身を投じよ”と言います。今、君主が忠臣を軽んじ、女色を好み、昏迷が目前に迫っているならば、道は1つ。朝歌に逆らい、我らの国を守って戦う事です。そうすれば、商の威信は保たれ、我ら一族を守る事も出来ますぞ」 蘇護は、憤怒で頭がいっぱいのところへ、これを聞いて更に怒りがあおられ、勢いのままに言いはなった。 「大丈夫。隠し事はしないものだ!」 筆と墨を持ってこさせると、午門の壁に詩をしたためた。 「これが、わしの決意だ!」
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