第2章

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両軍はおおいに戦った。 しかし、蘇護が仕掛けた奇襲であるのに対し、崇侯虎は全くの不意打ちだったので、冀州軍は一をもって十に当たるという勢いだ。 金葵は左右からの攻めを防いでいるうちに、趙丙に一刀のもとに斬って落とされた。 崇侯虎はとても支えられないと感じて、防ぎながら後退し始めた。長男の崇応彪が父を守って血路を切り開き逃げ出したが、その姿はさながら喪家の犬、網を逃れた魚という有り様だった。 冀州軍は猛虎・豺狼(サイロウ=極悪無慈悲な人)のように荒れ狂い、崇軍の屍(シカバネ)は野に散らばり、血は流れ河となった。 崇侯虎の敗軍は右も左も判らず、夜の事とて道も解らず、無我夢中で逃げ落ちていった。 蘇護は敗残兵を20里(約78㌔㍍)余り追撃したあと、銅鑼を鳴らして兵を引き、大勝して冀州に戻っていった。 さて、崇侯虎親子は敗残兵を引き連れて敗走を続けていた。黄元済と孫子羽(ソンシウ)が後方の軍を攻め来たて、馬に鞭を当てて追いついてきた。 「わしは兵を掲げて以来、大敗を喫した事は一度もない。ただ、この度は逆賊の奇襲を受けて、準備もなく闇夜に交戦し、多くの将兵を失ってしまった。この怨みは必ず晴らす!それにしても憎いのは西伯侯姫昌の奴だ。聖旨に背いて兵を出さず、のうのうと、高見の見物を決め込んでおる!」 長男の崇応彪が言った。 「ですが、我が軍は惨敗し、士気を挫かれてしまいました。しばらく兵を休ませ、その間に一軍をやって西伯侯に援軍を催促するしかありません」 「口惜しいが、お前の言う通りだ。仕方がない。夜が明けたら兵を集結させ、事を運ぼう」 ところが、その言葉が終わらないうちに、砲声が鳴り響いた。 誰かの声が叫んだ。 「崇侯虎!さっさと降服せよ!」 崇侯虎親子と諸将が声のほうを見れば、1人の年若い武将が立っていた。頭には金の冠、額には金の抹額(マツガク)、両側に雉の尾を揺らし、赤い戦袍(センポウ=鎧の上に着る衣)に金鎖の鎧をまとい、銀白の馬に乗って柄に模様がついた戟をてにしている。その顔は月のように白く、唇は紅を塗ったような赤い。 その武将が大声で叫んだ。 「崇侯虎!父の命により、ここで貴様を待っていた。早く武器を捨てて敗けを認めよ。まだ馬から降りぬとは、いつまでも待たせる気か!」
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