第2章

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崇侯虎はののし返した。 「こしゃくな逆臣の息子めが!貴様ら親子が謀反を起こし、朝廷に逆らい、天子の役人を殺し、天子の軍を傷つけた罪は山より重いぞ。貴様らの屍をズタズタにしてもまだ飽きたらんな。たまたま夜襲を受け、貴様ら逆賊の策に、はまってしまったが、それを盾にとってここで威張り散らすとは片腹痛い。まもなく朝廷の大軍が到着すれば、貴様ら親子はたとえ死んでも身を葬る場もなくなるのだぞ!誰か、この逆賊を捕らえる者はおらんか?」 「おう!」 一声叫んだ黄元済が馬を走らせ、蘇全忠めがけて討ちかかっていった。 蘇全忠は戟を手に迎え撃ち、2頭の馬は相乱れ、激しい戦いが展開した。 2人の勝負がつかないのを見て、孫子羽が馬を走らせ、綱叉(コウサ=鉄の刺股)をふるい、黄元済に加勢して蘇全忠に当たった。 蘇全忠は大喝一声、孫子羽を一突きして落馬させ、今度は崇侯虎めがけて突進してきた。 崇侯虎父子は共にこれを迎え撃ったが、蘇全忠は生気をみなぎらせ、風を呼ぶ猛虎か海を荒らす蛟竜(コウリュウ=想像の動物。まだ竜とならない蛟(ミズチ))といった様子で、1人で3人とわたりあった。 蘇全忠はわざと隙を見せ、一突きして崇侯虎の足の鎧半分を落としてしまった。驚いた崇侯虎は両足で馬をはさみ、その場を逃げ出した。 崇応彪は父が逃げるのを見て焦り、手元が狂って蘇全忠の一撃を受け損なった。戟は左腕をえぐり、血は鎧に流れ、崇応彪は危うく落馬しそうになった。諸将がそれを支えて、共に逃げ去っていく。 蘇全忠はこれを追おうとしたが、闇夜の事であるのを思い直し、やむ無く軍を率いて冀州に戻った。 やがて空が白み始めた。 蘇護は部下の報告を聞いて、息子を前殿に呼び出してたずねた。「あの賊将を捕らえる事は出来たか?」 「父上の命により、五崗鎮で待ち伏せしていたところ、夜半に敵の敗残兵がやって来たので、孫子羽を殺し、崇侯虎の足の鎧を突き破りました。また、崇応彪の左腕に傷を負わせたので、奴めほとんど落馬するとこでしたが、部下に助けられて逃げ去りました。その後、夜の闇の中で無謀な挙は慎まねばと思い、あえて追わず軍を率いて戻って参りました」 「生命冥加な奴め!分かった。お前はしばらく休んでいろ」        ━続く━
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