第1章

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「女カは上古の神、朝歌の福神で御座います。臣が陛下に参拝をお勧めしたのは、女カ様に祈って幸せを求め、民百姓が平安に暮らし、天下太平を求める為で御座います。ですが、陛下がこの様な淫らな詩をしたため神明を汚すとは、敬虔(ケイケン)さに欠け、神の怒りを招くものです。天子のなさる事ではありません。陛下、その詩を水で洗い落として下さい。民百姓の目に触れれば、陛下には徳政なしなどと言われかねません」 「わしは、女カの美を詩に表し、称えたまでの事。他意はない。このまま残して、わしの詩とともに女カの美しさを民百姓どもに教えてやれば良いのじゃ」 紂王は朝歌に戻った。 文武諸官もこれには黙って頷くだけで、誰1人として口出し出来なかった。 一方、誕生日である3月15日、女カは火雲宮(カウンキュウ)にて伏羲(フッキ)、神農(シンノウ)、軒轅(ケンエン)の三聖(サンセイ)に拝礼し、そのあと、女カ宮へ戻ってきた。 乗っていた鸞鳥(ランチョウ=霊鳥)から降り、宝殿に座って、金童玉女(キンドウギョクジョ)からの拝礼を受ける。 ふと頭をあげて壁を見ると、そこには淫らな詩がしたためられている。 女カは思わず怒りがこみ上げ、罵った。 「無道の暗君殷受(紂王)めが!身を修め徳を立てておれば良いものを、天を恐れず、詩を作ってわたくしを汚すとは、何と憎らしい!成湯(セイトウ=殷の初代王)が桀王(ケツオウ=夏の最後の王)を討伐し、天下を取ってすでに600年余り。既にに亡びる時は来ているのだ。奴に報いてやらねば、わたくしの女神としての体面にかかわるわ!」 女カはさっそく碧霞童子(ヘキカドウジ)に供をさせ、鸞鳥に乗って朝歌へ向かった。 朝歌では、紂王の2人の息子、殷郊(インコウ)と殷洪(インコウ)が父に拝礼していた。 殷郊はのちに“封神榜”上で“値年太歳(チネンタイサイ)”となり、殷洪も“五谷神(ゴコクシン)”となる(いずれも有名な神将)。この2人が父に拝礼すると、頭上から2本の赤い光が上に昇り、それが鸞鳥に乗ってやって来た女カの行く手を遮った。 女カが下を見ると、紂王はどうやらまだ28年生きられる運命にである事が判り、ひとまず帰った。
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