第1章

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それにしても不愉快、極まりない。そこで彩雲童子(サイウンドウジ)に金の瓢箪(瓢箪)を持ってこさせた。それを石段の下に置き、蓋を開けて指で指す。 すると、瓢箪の中から白い光が走り出た。その太さは糸ぐらいで、高さは4、5丈(約12、15㍍)。光の端には五色の旗が現れた。妖怪、妖ゲツ達を招き集める“招妖幡(ショウヨウハン)”である。 天下の群妖が女カ娘々の命を受ける為に集まっていた。 「軒轅(ケンエン)墓の中の3人の妖魔だけをお呼び。他の者は帰しなさい」 3人の妖魔は拝礼した。 3人のうち1人は千年修行した狐の精。1人は九頭の雉の精。もう1人は玉石の琵琶の精。 3人は石段に平伏した。 「鳳凰は岐山にて鳴き、西周には聖明な君主が現れ、成湯の運命は既に尽きかけてる。お前達3人は姿を変えて宮殿に入り、紂王を惑わし、周の武王(ブオウ)が紂王を打つ手助けをするのです。だが殺生をしてはなりません。事が上手く行けば、お前達も正果を得る事が出来るでしょう」 女カがこう言いつけると、3人の妖魔は叩頭し、風と化してその場を去った。 さて紂王は、かの参拝で女カの美しさを見た後、毎日そればかり考え、食事も進まず夜も寝られなかった。后妃達を見ても塵芥(チリアタク=ごみくず)の様に思われ、顔を反らすばかり。女カの事ばかりを考え、不快な日々を送った。 そんなある日、紂王は中諫大夫の費仲(ヒチュウ)を呼ばせた。 この費仲は紂王の寵臣である。太師聞仲が北海へ遠征している間、紂王は聞仲の代わりに費仲、尤渾(ユウコン)の2人を寵愛して信用していた。 国が亡びようとする時には、奸臣が実力を握るものだが、2人は毎日の様に天子を惑わし、讒言をしてへつらう。紂王も今や2人の言う事は何でも信じる様になっていた。 費仲は紂王は言った。 「わしは女カ宮に参拝し、この世に二つとない女カの美しさ容貌を目にした。ところが後宮に女は多いが、いずれも意に叶わぬ。一体どうしたものか。その方に、わしの憂いを無くす上手い考えは無いか?」 「陛下は一国の主。四海を有し、天下の全ては陛下の物です。明日にでも4人の大諸侯に命令をお下しなさいませ。各諸侯に100人の美女を選ばせ宮中に送らせるのです。どんな美女も、選り取り見取で御座います」 「お前の申す事はもっともだ。明日、早朝に命を下そう。下がってよいぞ」 紂王は大喜びした。        ━続く━
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