粉雪よ、消えないで

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乾杯の音頭が終わると同時に、ジョッキを傾けて一気にビールを飲み干す。 冷たくて微炭酸の液体が喉を流れていくのを感じた。 「かぁーッ!やっぱ仕事の後はこの一杯に限るわねぇ~」 上唇に小さくビールの泡を髭のように付けて、彼女は上機嫌に言った。 その様はさながら中年の男性のようで、少し笑えてしまう。 「そうだね。でも最近は焼酎もいいかな」 「あー、アタシあれは無理だわ。どうにも好きになれないのよ」 ………などと酒談義に花を咲かせていると、居酒屋の小さなガラス窓の外に雪が降っているのが見えた。 「あら、雪が降ってきたわ。もうそんな時期なのね」 「うん………」 そのとき、ふいに思い出した。 毎年この時期になると思い出してしまう。 「雪…………」
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