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笑いながら毒づいて助手席の背もたれに拳を叩きつける。ほんの少し車の進路が揺れ、後ろから近づいてきた乗用車が慌ててブレーキを踏んだ。とりあえず今の一撃で心は落ち着いた、進路を戻す。
「ほんと最近、パトカー多いよな」
誰に聞かせるでもなく呟く。
ここ最近、朝っぱらかでもパトカーがサイレンを鳴らして走ることが多い。近所の住人にとっては良い目覚ましになっていることだろう、
そこまで考えて、彼は大事なことに気がつく。
「まぁ……俺にも原因はあるがな」
サイレンが遠ざかったことを確かめアクセルを踏み込みながら、彼は笑っていた。
BAR『アルカナ』
女性のマスターが一人で切り盛りし、(バーだから当然だが)夜しか開かないその店は、BARという名称にはあまり相応しくない店だった。ウィスキーやカクテルも揃っているが、芋焼酎や『鬼殺し』なる名称の酒までそろっている。
もっともBARらしくないのはその客層。チンピラ然とした者や懐が妙に膨らんだ者。そういった人間が客層のこの店は一部以外にはすこぶる評判が悪かった。
そしてそれは表の顔。
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