第一章 大失恋のその後で

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   キッチンに立ったままで、隣の部屋にいる勝也の気配を背中で感じようとしてみた。  部屋の中をキョロキョロと見てる感じとか、落ち着かなくてソファーの上で何度か座り直したり。  でも、テーブルの上に出しておいた物が、気になってる様子は見なくても伝わってくる。  卒業アルバム。 「愛美、これ卒業アルバムだろ。ちょっと、見て良いか?」  心臓が、跳ね上がるみたいに強く鼓動する感じがした。そして、その心臓を強く握り締められるみたいに、胸が苦しくなってくる。  中学の時の卒業アルバム。  それは、勝也の知らない私。  そして、今の私じゃない私。 「うん、いいよ。お湯が沸くまで時間がかかるから」 「あぁ、じゃあ見せてもらうわ」  ページを捲る音が聞こえる。  きっと、今の私の面影を探してるんだろうな。面影はあるけれど、簡単には見付からないだろうな。  性別適合手術は受けたけど、顔の整形手術は受けていない。 「なぁ、愛美。なん組だったんだ?」 「C組だよぉ、見付からないの?」  
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