第1章 黒猫捕縛

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「なっ……なんだテメェ……」  突然現れたカムイに驚き、怯えた風のゴロツキが言った。まあ、それも無理はない。  少しよどんだ風な灰色の短髪に、対照的に深遠な黒を放つ瞳。上には何も着ておらず、細身ながらよく鍛えられた肉体があらわになっている。そのうえ顔や体全体に、角ばった螺旋のような奇妙な模様が延々と描かれていた。首からは動物の爪や鉱石を通したアクセサリーを下げていて、一見すると祈祷師のようにも見える。  周りの連中も、木の上からの乱入者に戸惑っているらしい。  だが、直接襲われた騎士の衝撃はそんなものではなかった。  押さえられた左手は拘束を解こうともがき、兜の下の目は襲撃者を捉えようとする。  それでも、しょせん片腕の力では、男1人を退かせることは出来なかった。  カムイは騎士を押さえ込みながら、周囲で立ち尽くしている集団を見た。目算で約80人。相当に疲れそうだが、出来ない数ではない。  稀に生じる仕事を実行しようと、1人の男に視線を絞ると、暴れ続けていた騎士が突然動かなくなった。  何事かと下に視線をやると、右からの打撃がカムイの頭を打ち抜いた。怪我で動くまいと放っておいたボロボロの右手にぶん殴られたのだ。完全な不意打ちに加え、手甲の硬さとも相まって、騎士への拘束が緩む。
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