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…
「それで、なんであんたは神社を訪ね回ってるんだ?」
蘭華に案内された神社の裏手にある縁側での事。
腰を落ち着かせた愁音は同じく蘭華が腰を下ろすまで待ち、その後即座にその質問を問い掛けていた。
愁音の問い掛けに蘭華は空に、正確には空に浮かぶ月に向けていた視線を下ろし愁音に向け、答える。
「私にもわからないよ」
何処か寂しげな笑みを浮かべ、蘭華は再び空を仰ぐ。
それに釣られてか、愁音も自然と空を見上げ、
「綺麗だ」
そう、小さく呟いた。
「わからないんだ私にも……ただ“何かを探してる”んだと思う」
「探してる?」
唐突に始まった蘭華の答えの続き。……愁音は蘭華に視線を向け、ただ一言返した。
……あぁ。蘭華の横顔が頷く。
「実を言うと私は記憶がないんだ。一ヶ月前のからの記憶がぽっかりと無くなっている。ある日の朝、私はこの世に生を受けた。そんな感覚だったよ」
蘭華は愁音に顔を向け、力無く自分の頭を指差す。
「ここに入ってる情報は自分の名前とわけのわからない物だけだ。正直不安で堪らない。だがな、神社にいると何かがわかる気がするんだ」
だから私は神社を訪ねてるのだろう。蘭華はまた空を仰ぎ、寂しげな笑みを浮かべた。
ちょっとした騒ぎを起こした噂“赤毛の貞子”。その真相は一人の女性の悲しい物語だった。
……それはあまりにも笑えない事だ。
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