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風見 蘭華という一人の冗談でも笑えない話。
それを聞かされた愁音の心は自分でも驚くほど、暗くなった。
「ははは、君が気にする事じゃないだろう?。全く、これでも私は楽しんでるぞ。神社参拝も中々いい」
きっと愁音の気分の下がりようは蘭華でも気づくほど、大胆だったのだろう。
それを気にしてか、蘭華は笑顔で愁音の背中を叩いた。
その時の笑みは無理に出したものじゃない、本当に楽しげな笑みだった。
「……あんたは強いな」
「ありがとう。……そうだ、君は此処の神社の名前を知ってるか?」
蘭華の問いに愁音は暫く頭を働かせる。
近くに住んでいるとはいえここの神社はなにぶん印象が薄い。
だから、愁音は即座に伝える事が出来なかったし、神社の名前を思い出すのに数分の時間を要した。
「確か……は…く……れ――」
「ちょっと待て」
「……んぁ?」
遮られた事を不愉快に思ったのか、愁音は顔を歪め蘭華を見つめる。が、
「どうした?」
蘭華の異変をいや、場の違和感を感じ取り、蘭華も向いている横に視線を向けた。
「誰かいる……な」
愁音にはそこに何がいるのかわからない、見えるのは漆黒の闇だけだった。
やがて蘭華が少し見てくると腰を上げ歩きだす。
……その時、愁音ははっきりと見て、感じた。“行ってはいけない”と。
「ッ!……ま――」
「流石愁音さん。覚醒が速いですね」
刹那、愁音の意識が大きく揺らいだ。
――薄れいく意識の中、愁音が最後に見たのは蘭華と空間に空いたとしか思えない“裂け目”だった。
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