憧れは氷の女帝

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「………ここ」 俺は美咲に連れられて図書室の前にやってきた。 俺が図書室の扉を開けるとすぐにパタパタと美咲は本棚に近づいて行く。 その時の美咲の姿は幼い頃に似ていた。 あれは何年くらい前だったかなと意味もなく物思いにふけっていると、美咲は2冊の本を持ってきた。 「……借りる」 「ああ、早くしな」 「……借りる」 「うん」 「……借りる」 「……………」 もしかして…… 「借りる方法が分からないのか?」 美咲は表情を全く変えずにコクッと頷く。 俺は知っている範囲で本を借りる手順を教えることにした。 図書室の一角のテーブルに二人並んで座る。 なんだか、気恥ずかしいな。 そして、視線が痛い気がする… ふと、周りの人を見るとこちらを殺意のある目でこちらを睨みつけている。正直イカれている。 そして、対面に座っている人の口が動いている。 「キエテナクナレ」 なんかの見間違いだろう。 一応、怖いので違う人を見る 「ジゴクニオチロ」 ありえねえだろ。 まさか周りはファンクラブの奴らなのか。 直感が言っている「逃げなければ死ぬ」と。 「………本、借りてくる」 美咲は俺をテーブル取り残して行くつもりらしい。 そんなマネはさせない、尊い命のために。 美咲が立ち上がり、俺も立ち上がり、周りの人達の4割くらいが一斉に立ち上がった。 恐るべしファンクラブ。統率力が軍レベルだ。 これは美咲から離れたらマジでヤバイ。 美咲がカウンターで手続きを済ませる。 カウンターの女の子は笑顔で、返却日はいつでもよろしいですと言って本を渡してくれた。 しかし、後ろに「返却日は二週間後!守らないと呼び出しちゃうぞ」というポスターが張られていた。 待遇がおかしい。 美咲が本を受け取り俺の方を向いた瞬間、カウンターの女の子は中指を立て「ブッコロス」と口を動かした―――気がする。 「………本、借りた。……帰る」 一人その場から立ち去ろうとする。 美咲さんそれはマジっすかー。俺に死ねって言うんですか。 ファンクラブの人達が待ってましたとばかりに俺の方に近づいて来たところで、美咲が足を止め俺の所まで戻ってきた。 「……一緒に帰る」 俺の制服の袖を引っ張って図書室を出ようとする。 俺は流れる水のように抵抗しないでそのまま図書室を後にした。 俺が最後に見た図書室の光景は………考えたくもない。
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