【前哨】

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「俺は……」 『曹操の部下だ』 そう言おうとした瞬間だった。 「おや。そこにいるのは宋祐ではないか?」 懐かしい声を聞き、宋祐は振り返る。 そこには虚無僧のような出で立ちをしたわりと長身の男が立っていた。 宋祐はこの男を知っていた。 「その声……雲斎だよね?」 「いかにも……っと、申し訳ない。笠が邪魔だったかな」 姓は百地、字は雲斎。 宋祐と同じ、日本からこの国に来た者だ。 その雲斎は、大きく息を吐きながら藁で編まれた笠を頭からとった。 雲斎はにこりと宋祐に向けて笑い、手を差し出す。 宋祐も雲斎と同様に手を出した。 「久し振りだな」 「そうだね。半年ぶりくらい?」 「もうそんなに経ったのか」 握手をしながら、雲斎はさも意外そうに言葉を漏らした。 「時が経つのは本当に早いものだな」 「そうだね。雲斎と会ったのが、つい先日のように感じられるよ」 「同感だ」 雲斎は深く頷く。 「宋祐は……半年でだいぶ変わったように見受けられるが」 雲斎は宋祐を上から下まで眺める。 「そうかな? 色々な人に言われるけど、自分ではいまいち実感ないんだよね」 「確かに自分では分からないものではあるがな。とにかく、宋祐は変わったと私は思う」 「具体的には?」 「たたずまいとかがな。昔は頼りなさげであったが、今はどっしりとしていて頼りがいがありそうだ」 「へぇ。そうなんだ」 宋祐は自分の手を見つめる。 宋祐の手は、毎日素振りを欠かさず行っていたため、マメがかなり出来ていた。 宋祐はギュッと拳を握る。 その後、宋祐と雲斎はしばらく談笑をしていた。 が、一つ重要なことを忘れていた。
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