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「……おい」
宋祐に身分を尋ねた兵士が、苛立たしげに槍の穂先で地面をつく。
宋祐は『ああ、忘れていた』といった具合で兵士の方を見る。
「お前は何者だ、と聞いているのだが」
宋祐が答えようとすると、雲斎が宋祐と兵士の間に割って入った。
雲斎は宋祐に向けて『俺に任せとけ』という表情を見せると、兵士に顔を向けた。
「あぁ、申し訳ない。こいつは私の友人でな」
「友人……とな。したらば、貴方は?」
兵士も雲斎の独特の雰囲気に何かを感じ取ったのか、丁寧な口調をする。
「私は百地雲斎。孫策様の将の一人だ」
「孫策様と言うと、袁術様の……これは失礼いたしました!」
兵士は雲斎の身分に気付いたのか、平身低頭し、槍も元に戻した。
雲斎は特に気にしていないといった素振りを見せ、兵士を他のところへ追いやった。
「さて……と。そう言えば聞き忘れていたことがあったな。何故宋祐はここにいるんだ?」
「俺? 俺は……」
何故か。
そう聞かれたら、答えは単純だ。
『曹操に仕えるため』
それだけのはずだ。
だが、何か納得がいかない。
胸の奥につっかえて取れないような思いが宋祐の中には存在した。
「……この世界を救いたいから」
「なに?」
宋祐の口から漏れた言葉に、雲斎は眉をしかめる。
雲斎はてっきり『困っている人を助けたい』という理由だと思っていたからだ。
しかし宋祐は『世界を救いたい』と言った。
宋祐の言う“世界”とは、恐らくこの中華全土のことだろう。
そこまで大きいことだとは、雲斎は思ってもいなかった。
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