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「尋?」
考え事をしていると、悠眞がいつの間にか目の前に立っていた。
「あ、どうも。」
「どうした、こんなところで。早く行かないと陵さんに怒られるぞ。」
「そうですね。」
俺はそう言うとベンチから立ち上がる。
本当は顔も見たくない状態だったが、行かないわけにもいかない。
「何かあったのか?」
俺の様子を変に思った悠眞が顔を覗き込んでくる。
そういえば、彼は俺が生まれる前から事務所にいる。
ということはもしかしたら、俺がここにいる理由を知っているかもしれない。
どうして親父が俺を息子としてこの世界に置いているのか。
「悠眞さん。」
「ん?」
「あの…。」
言葉を口にする前に俺は考えた。
もし、真実を知ったとして、俺はこれからどうするつもりだ?
何を聞いたとしても今の状況が変わらないならば、聞かない方がいいこともある。
「なんでもありません。」
俺はそう言うと事務所に向かって歩き出す。
その後姿を見て、悠眞は深い溜息をついた。
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