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事務所に着くと既に親父が来ていた。
「何をやってた?」
彼は俺を見つけると一言そう言った。
「いえ、別に。」
俺はそう言うといつもの定位置に座る。
後ろから悠眞がやって来て、事情を話す。
「すみません、昼飯一緒してたら遅れました。」
そんなのはもちろん嘘だ。
でも悠眞はいつも俺を庇ってくれる。
「そうか。でも今度からは、遅れるなよ。」
俺だけにそう言うと話を始める。
親父は、悠眞の言うことは信じる。
悠眞のことは信頼しているし、可愛がっている。
今はその態度の違いが胸に突き刺さる。
「今度の依頼はこいつだ。」
そう言って一枚の写真をみんなに見せる。
「今回は警護がかなりキツイ。だから大勢で行くことになると思うからそのつもりでいろ。」
「「はい。」」
親父の言葉に俺以外が返事をする。
「作戦は悠眞が立てる。お前らはそれに従え。」
「「はい。」」
そして悠眞が説明を始める。
でも俺の耳には彼の声がまったく入ってこなかった。
一通り説明が終わったのか、皆はパラパラと散っていく。
「尋、お前ちゃんと聞いてなかっただろ?」
さっきから一点を見つめ続けている俺に気がついて、悠眞が近付いてくる。
「あ、ごめん…。」
「やっぱり今日のお前おかしいぞ。何かあったんだろ?」
俺は何も言えずに黙りこむ。
「はあ…そんなんだと仕事はさせられそうもないな。」
「そんなこと…。」
「いいから、今回は休んどけ。休むのも仕事の内って言ったろ?陵さんには俺から言っておくから。」
そう言うと彼は俺の頭を撫でる。
「ちょっと悠眞さん、いつまでも子供扱いしないでください。」
俺はその手を払いのける。
「お前はいつまで経っても俺にとっては子供だよ。だから、少しは頼っていいんだぞ?」
そう言って彼は温かい笑顔を俺に向ける。
親父よりも彼の方が余程俺の父親らしかった。
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