第三章

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俺は考えた。 部屋のカーテンが閉められていることから、もう外は暗くなっていることがわかる。 そろそろ、行かなければ任務は遂行できない。 しかし、今のこの状態では人を殺すことはまだしも、歩く事さえできない。 今日はこのままここにいるしかなかった。 でもそれもまずかった。 こんな山奥に人が来ることはほとんどないはずだ。 ただでさえ荷物が少ない男がここにいるのは明らかにおかしい。 きっと俺をここまで運んだ人間は、俺を怪しんでいるに違いない。 もしかしたら既に警察を呼んでいるかもしれない。 警察になんか捕まったら、身元が全てわかってしまう。 それは俺だけではなく、組織自体の危機だ。 この場にいることも俺にとってはまずいことだった。 思い悩んでいると、誰かがドアを開けて入ってきた。 「あら、起きてたの?」 そこには四十代ほどの女がいた。 だが、年の割に綺麗な人だった。 「びっくりしたわ。こんな山奥で人が倒れているんだもの。」 その言葉で彼女が俺を発見したことがわかった。 「あの…。」 「何?」 「今何時ですか?」 「今?夜の十一時よ。」 思っていた通り、既に夜は更けていた。 「助けてくださってありがとうございました。俺、行かなきゃいけないところがあるんで。」 俺はそう言うと無理やり体を起こした。 一瞬目眩がしたがそれでもなんとか起き上がることができた。 「何言ってるの!?ダメよ、そんな体で動いたりなんかしたら、またすぐ倒れるだけよ?」 そう言って彼女は再び俺をベッドに寝かせる。 「でも…。」 「山登り、慣れてないんでしょ?」 「あ…はい。」 「山をなめてたら痛い目に合うわよ。だから、少しここで休んでからにしなさい。」 彼女はそう言って優しく笑う。 どうやら今は彼女の言う通り、ここにいるしかなさそうだ。 それに見たところによると、あまり悪い人ではなさそうだ。 見た目で判断するのはどうかと思うが…。 「じゃあ、お言葉に甘えて…。」 俺がそう言うと彼女は納得したように頷いた。
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