第三章

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「お腹減ったでしょ?今、お粥温めてくるから待ってて。」 彼女はそう言うと部屋を出て行った。 パタパタという音が遠ざかっていくのを確認して、俺は再び溜息をついた。 しばらくここにいるとしても、親父に連絡を入れなければならない。 そう思い、俺はポケットを探る。 しかし、そこには何もなく辺りを見渡すと、ヘッドボードに置いてあるのを見つける。 取ろうと手を伸ばしたその時、再び誰かが部屋に入ってきた。 俺はドアの方を見ると、目を見開いた。 そこには、この山に登ってきた目的である人物、一条 晃が立っていた。 「気分はどうだ?」 俺はその言葉に少しドキリとした。 もしかして、俺の正体がばれているのではないかと思った。 『本来、殺すべき相手に助けられた気分はどうだ?』 俺にはそう聞こえてならなかった。 今の俺は例え襲われても、対抗できない。 殺そうと思えばいつだって殺すことができる。 俺の額を冷や汗が伝う。 「どうした?まだ気分がすぐれないか?」 「あ…。」 どんどん彼は俺に近付いてくる。 なぜか俺は今、殺される側に立っている気分になっていた。 いや、実際にそうなのかもしれない。 彼がベッドの所まできて、俺に手を伸ばしてくる。 もうおしまいだと思って目を閉じると、額にひんやりとしたものが触れる。 俺は恐る恐る目を開けると、彼は自分の額と俺の額に手を当てていた。 「熱はないみたいだが、顔色が少し悪いな。もうすぐ壱乃がお粥を持ってくるから、それを食べたら薬を飲んで寝なさい。」 そう言うと俺の額から手を離した。 壱乃というのは先ほどの女のことだろう。 二人はきっと夫婦なのだ。 「しかし、こんな所まで何しに来たんだ?」 俺はその言葉を聞いて、再びドキリとした。 そして、どう応えようかと目をあちこちに泳がせていると、彼はふっと笑う。 「言いたくなければ言わなくていい。」 彼は近くにあった椅子に座る。 「誰だって人に言えないことの一つや二つあるもんだ。」 そう言う彼は、自分にも秘密があるとでも言っているようだった。 「まあ、とりあえず今は安静にしてろ。」 彼も、先ほどの彼女と同じようにそう言うと優しく笑った。
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