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『弟』、女性がそう言った時、青年から一瞬殺気が漏れ出すが、それはすぐに収まり、それを確認した女性は続けるように口を開いた。
「ですが、それでも私は貴方を救いたい!いい加減な事も矛盾していることも重々承知しています。でも私はもう、貴方を見捨てたくはないんです!!」
それは、女性の心の底からの本心。後悔と虚しさ、愛しさと決意が入り混じった叫び。
その眼に宿るのは、決意と覚悟。その眼に映るのは返り血にその身を染めた最愛の弟。
そして女性の宣戦布告にも似た発言の後、双方の間に一陣の風が通っていく。青年と女性のコートは、風の余韻を残しながら靡き、揺れていた。そして今一度来た重い沈黙の中、
「言いたいことは、それだけですか」
青年は吐き捨てるかのように、そう口を開いた。
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