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   当たり前の事。  僕が嬉しいと思った事は、本当に当たり前の事なのか?    ふとした疑問が頭をよぎる。    ──友達が死んで、少なくともカイは悲しいと思ったでしょう。でも、それ以上に嬉しかった。『生き残れて』嬉しかったのよ。そうでしょ? あたしの言ってる事、間違ってるかしら?    薺姉ちゃんがそう尋ねて来た直後、僕は後ろから何かに抱き締められた感覚に陥る。いや、実際に抱き締められているのだろう。でも人間的な温もりはそこになく、あるのは氷のように冷たい感覚のみ。   「ねえ、ちゃん……?」    冷たい感覚に鳥肌が立ち、一気に体温を奪われて行く。言葉を紡ごうと開かれた僕の口は、小刻に震えていた。   「……カイは、あたし達の姿を視て何を思う?」    耳元で聞こえた薺姉ちゃんの声は、感情も抑揚も何も無い、機械みたいな声だった。冷たい吐息が耳にかかり、僕は身体をこわばらせて息を飲む。   「怖い? 可哀想? 哀れ? 自業自得? 有り得ない? 夢? 幻覚? それとも……何も、思わない?」    まるでプログラムされていたかのように、姉ちゃんはそう言う。    何も思わない、なんて事は、それこそ絶対に有り得ない。でも、今薺姉ちゃんが言った言葉の中には当てはまらなかった。と言うか、当てはまりそうな言葉が見付からないのだ。    僕は。  薺姉ちゃん達を視て、一体何を思ってる?    そんなの、考えた事もない。ただ、雨の日の夜にだけ視える存在なんだとしか、認識していなかった。    僕は薺姉ちゃん達に対して何を思い、何を感じているのだろう。    氷のような冷たい姉ちゃんを背に感じながら、僕はそう思った。  
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