18人が本棚に入れています
本棚に追加
──そうだ。
リクは薺姉ちゃんの事を心の底から信頼し、尊敬し、敬愛してたんだ。
雨の日になると、リクはいつも空を眺めてぼーっとする。それは、薺姉ちゃんを思い浮かべての事なのだろう。僕は悲しそうにしたリクから目を反らし、小さなため息を溢す。
「……ごめん、暗い雰囲気にしちまって」
リクは申し訳なさそうに笑い、ソファーから静かに立ち上がる。二階に上がるのだと思って僕がリクを見上げた時、リクは僕を冷たい目で見下ろしていた。
そして一言。
「お前がいなくなれば良かったのにな、カイ」
その声は小さくて、母さんには聞こえてなくて。でも僕にはしっかりと聞こえてて。僕の目には──不気味に笑うリクが、映っていた。
リクはすぐにその場から立ち去り、階段を駆け上がって行く。僕はしばらくの間、リクの駆け上がって行った階段を見つめていた。
僕は見た。
確かに、しっかりと。
間違い様のない“それ”を。
雨の日の夜だけ“視る”ことの出来る“奴”を。
僕はリクの背後に“それ”を見て──来てしまった“奴”を、視たんだ。
人に──それも僕の兄弟に取り憑くなんてズルイじゃないか。イエローカードなんてもんじゃない、レッドカードでも事足りないくらいの卑怯だ。
今日はいつにも増して最悪な夜になりそうな気がした。
最初のコメントを投稿しよう!