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廻間世界の果てにある、森の最奥。そこには立派な大樹が聳(そび)え立っている。
まるで――廻間世界を初めとする、今存在する全世界達を見守るように。
「ふること、ふーるーこーと!」
そんな大樹の幹に寄りかかるように座る奇妙なお面を頭に着けた男を何度も呼ぶ、渋い緑色の髪をお団子にまとめた少女。
最初はまるで反応を示さなかったものの少女が一回り大きな声で呼ぶや、男はゆっくりと彼女へ視線を下ろした。
「……ああ、聞こえているよ」
「聞こえてるなら最初から返事するがヨロシ。ほれ、コレ頼まれたものアル」
そう言って少女は、男――ふることへ袋をつき出す。
袋口の隙間から香ばしい匂いを漂わしていることから、おそらくパン類か何かだろう。その袋を確認し、ふることはおもむろに幹に手をつくと、地上から何メートルもあろう大樹の上から飛び降り、着地した。
その身軽さは、人間離れしたものであった。
「すまないね、凛圭」
「伊達に刻影の連絡係やってないネ」
「なるほど」
少女――凛圭の言葉に薄く微笑を浮かべたふることは、大樹の根元に腰をおろす。凛圭も同じく、彼の隣へ腰かけた。
「けど、珍しいアルな」
「何がかな」
「ふることが下界の食べ物食べたいなんて言うことアルよ」
凛圭は自分の肉まんが入った袋を取り出し、一口かじった。
そして何かを疑うような意思のこもった瞳で、彼を見た。
「ふることはいつも廻間世界の中にある食物で済ませるネ。しかも一日二食、多くて三食しか食べないくせに」
「ちょっと下界の食べ物がどんなものだか気になってね、知りたかっただけだよ」
袋を開け、ふることも取り出した肉まんを口へ運ぶ。ふわふわとした触感に包まれる肉の旨味に、彼が表情を緩めたような気がした。
「うん、美味しい。蒼姫が言ってたことは本当だったようだね」
初めて肉まんを口にしたような言い方だ。いや、実際ふることにとっては初めてなのだが…少々驚き過ぎのような気がする。
そんなふることを、凛圭は肉まんをほお張りながら怪しむように見つめていた。
最近、ふることは何かとよく下界という言葉をよく使う。
前は下界のことなど、然程興味がないような態度をしていたにも関わらず。
そう――丁度、あの者と出逢った時から。
「…ガゼルクラン、アルか?」
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