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「ガゼルクランは自分の人格と志をしかと持った人物だ。閉鎖的な廻間世界に縛られ、中立主義の思想に染まるべき人物ではない。そもそも彼だって、蔭人になりたいとは言っていなかったろう?」
「まあ…確かにそうアルが」
むしろ彼はその逆を言っていた気がする。
“許されない罪を重ねてきた自分の、相応しい死に場所が欲しい”と。
「それに…わたしは、彼には人間として幸せに生きてほしいと思っているんだよ」
蔭人は老いることのない、不変の存在。
しかしそれは同時に、半ば永久的にこの世で生きていかなければならないことを意味している。
人によっては素晴らしいことと思われるかも知れない。しかし、それは何処か哀しいものでもある。
老いることも死せることも出来ず、周囲の者の死を見届け続けなければならない喪失感。
永遠という名の呪縛の中で、何のために生きるのかまるで見えない虚無感。
その二つが永久につきまとう不変という名の存在、それが蔭人。
「蔭人として生きるより…“人間”として限りある未来を自由に生きた方が、幸せなのさ」
人間の命は儚い
けれど、だからこそ人間は限りある命を必死で生きようとする
「なかなか退屈なものだよ、不老不死というのも」
それは、老いることのないふることの――自身への卑屈の意味を含む言葉にも聞こえた。
『君がため』
(もしかすると…わたしはきみが羨ましいのやも知れないね)
fin
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