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「下界では既に衣替えをしていると聞く。この際だ、皆々服を新調してはどうだろう」
廻間世界最高権利者――『黄昏の王』もといワイスのそんな提案が持ち上がったのは、異世界で云う初夏の日のことだった。
「…衣替え、か」
「なーに耽った顔してんの? 胡飲酒ちゃん」
「!」
背後から聞き覚えがあり過ぎる声が聞こえたと同時に肩を叩かれたため、ぎょっとした顔で勢い良く振り返ってしまった。
「…テクノカルトか。脅かすなよ」
振り返った先には《廻間世界情報部オラトリオ》の情報管理長にして、廻間世界の影の支配者――テクノカルト。
仕事上の上司であり、そして自分の恋人でもある彼は、灰のレンズが特徴的なサングラスの位置を指先で直しながら軽快な足どりでこちらへ歩み寄ってきた。
「ゴメンゴメン。あんまりにも物思いに耽ったような表情してたから、つい」
「別に耽ってはねぇけど…もう異世界じゃ衣替えの季節なんだなーって思って」
「まあ確かに、突然の服新調だからねぇ。なんなら俺が作ってあげようか!」
「…またフリフリのゴスロリ着せる気じゃないだろうな」
こいつのことだ。衣替えと称して、また俺にあのフリフリのゴシックロリータ系の衣装を着せにかかるんじゃなかろうか。
俺が向ける疑いの眼差しに、テクノカルトは苦し紛れに笑みを浮かべていた。
「いやいや、流石の俺様も普段着でゴシックロリータ着ろとは言わないさ」
「どうだか」
あの時、翡翠やラピスと一緒にノリノリで服選びしていたくせに。
それを言うと「一回限りだからこそ良いんじゃないの」と返してきやがった。
なんか腹が立ったから軽く蹴飛ばしてやろうかとも思ったが、俺が身構えた時にはテクノカルトが不敵に蒼と紫の目を細めていたのでやめることにする。
別の意味で返り討ちに遭いそうだ。
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