逃亡者

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  ――某港区の海港。 倉庫が建ち並ぶ静かな場所を、一人の男が必死に走っていた。 何回か転んだのだろうか。 男が着こなしている高そうな黒いスーツには、汚れが目立っている。 「ひっ…!」 後ろを振り返り。小さい悲鳴を漏らす。 まだ追っかけて――。 たまに後ろを振り返り、またすぐ前を向き必死で走る男の顔には――――紛れもない恐怖。 「殺される……!!」 振り絞った声で、男は言った。 男の他にも仲間はいたのだが、既に死骸と化してその辺に打ち捨てられている。 今、自分を狙っている者達の手によって。 やがて男は追っ手を撒くことに成功し、倉庫の影に隠れた。 荒い息づかい、乱れる髪。 ズレたサングラスを直し、男はおそるおそる顔を出す。 ……誰もいない。 「た、助かった……」 今までかかっていた緊張がとけたのか、倉庫の壁に寄りかかり安堵の息をついた。 遠くには点々とネオンの街明。 この暗い倉庫裏からだと、よく見える。 おそらく、相手も諦めて帰っただろう。 ネオンの街明かりを見つめ、男がそう思った時だった。 「――諦めて帰ったとでも?」 「!」 男の顔に緊張が走った。 この声は、追っ手の声。 男が辺りを警戒するも、姿は見えない。 一体何処に―――― 「ここだ」 「ひぃっ…!?」 声がした方に向いた瞬間、男は緊張で凍りつくような感覚に見まわれた。 男の真横に、“追っ手”はいたのだ。  
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