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男は膝をつく。
恐怖にかられた表情でポツリ、ポツリ言葉途切れに呟いた。
「た……頼む、見逃してくれ」
助けを求めるように祈る男を、追っ手は無言で見つめる。
その瞳に映る男は、こちらに顔を上げた。
「俺には、大事な妻や子供がいるんだ……頼む…!!」
嗚呼、馬鹿馬鹿しい。
それなら何故、その妻や子供のために尽くさなかったのだろう。
もし、そうしていれば……愚かしい罪を犯さずに済んだ筈なのに。
「なぁ、嬢ちゃんにも家族や大切な人がいるだろう? 嬢ちゃんがしようとしてることも、犯罪になっちまう。だか――」
その瞬間、風を切り凩が通り抜けた。
共に、何かが切れる音も。
男の身体はスローモーションのように崩れていき――――
「…………」
彼女の瞳には、頭が横一線に真っ二つになり、アスファルトに赤い染みを広げていく男が横たわっているだけだった。
「最後の一人、始末完了」
真横から、男の声。
軽快、しかし暖かみのこもって無いその声色の主は、彼女の頭には一人しか浮かばない。
「エコラス……」
予想通り。
彼女が向いた先には、薄紫色のオールバックヘアの男がにこやかに手を振っていた。
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