七章 聖夜の夢

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 その日の夜……俺は夢を見た。  青海祭の時に見たような不思議な夢。  体は自由に動くし、意識はハッキリしている。 「ここは……蓮先輩の家?」  つい先ほど蓮先輩を送った時に見た家が目の前にあった。  俺は引き寄せられるように家の中へと入っていく。  リビングからは幼い少女の声。 「引越なんて嫌!」  どこか蓮先輩に似た雰囲気を持つ少女が、母親と思われる女性に対して声を荒げている。 「あなたは私の娘なのよ? 都会に引っ越して歌のお勉強をして、歌手になるの。それはあなたの夢でもあったでしょう?」 「確かに歌手になるのは私の大切な夢……でも、この町にいるお友達も夢と同じくらい大切なの! 離れ離れになっちゃうなんて……嫌」  夢の中の少女はまだ幼いのに自分の思いをハッキリと母親に伝えていた。  だが、強がる姿勢とは裏腹に、少女の瞳からは溢れんばかりの涙が流れていた。
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