七章 聖夜の夢

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「この町に居たら歌手にはなれないわ。この町に居たらあなたは幸せにはなれないの!」  言い聞かせるように詰め寄る母親。  少女は服の袖で涙を拭き取り、恐れることなく母親に立ち向かった。 「なら、幸せならこの町に居てもいいんだよね? 歌手になれば引っ越さなくてもいいんだよね?」  少女の瞳からは止まることなく涙が流れていた。  それでも少女は、まるで『私は幸せなんだ』と言わんばかりに必死に笑顔を作り続ける。 「……勝手にしなさい」  母親はそう言ってリビングを出ると、リビングの外から見ていた俺の隣を通ってそのまま家を出て行った。  それでも尚、笑顔を作り続ける少女を見て確信する。  この夢は蓮先輩の夢……蓮先輩の過去の記憶なんだ。  ふと思い浮かぶのはいつかの夢に出て来た兄の姿。  この夢を俺に見せたのは……兄さんなのか?
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