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「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
丁重な挨拶に、俺は戸惑っていた。
成城学園前から徒歩5分。
俺は正式な契約と挨拶のため、池上邸を訪問していた。
出迎えた美和婦人は、修一や猛と血縁関係があることを疑うほどに楚々とした女性だった。
「お役に立てるよう、努力はしますが」
曖昧に、語尾をぼかす。
あんたらのケンカに関しては、どっちの肩ももたねぇから。
俺の語外の主張をすぐに察して、美和婦人はたおやかに微笑んだ。
「先生のご決断に、私は一切意見をするつもりはございません。どうぞ、お心のままになさってください」
静かな微笑に他意は見えない。
「私は仕事を抜けて参りましたので、契約が済みましたらお暇させていただきます。猛は自室におりますから、よろしければ今日から勉強を見てやって下さいますか?」
「それは構いませんが……」
おいおい、あんたが留守の間に勉強教えるのか?
ひとつめの条件は3時間のうち、2時間は勉強をすること。
しっかり監視しなくていいのかよ?
「猛は、一度約束したことを破る人間ではございません。心配はご無用です」
静かな。
しかし、確固とした口調。
なんだよ?
案外、この親子の信頼関係は固いのか?
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