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「悠紀、」
俺は修一の少し前に出た。
大きな手が俺の肩を掴む。
大学から、最寄駅に向かういつものルート。
下り階段でいつものように、修一の手摺りになる。
猛と初めて会った5月。
あれからもう、一ヶ月が過ぎようとしていた。
俺達の口数は圧倒的に減っている。
友達という、仮面を捨てた俺達は今、お互いに距離を測りかねていた。
「悠紀、今日は俺の家に来い」
今日は?
意味もなく、カテキョがない日は俺を家に呼ぶクセに?
俺は返事をしない。
どうせ、断らないことなんてわかりきっているのなら、返事をする意味がない。
「悠紀っ」
苛ついた口調。
階段を下り切ったところで、俺は修一の右手を払い落とす。
「行くよ」
俺達は目を合わせることすらなくなっていた。
どうしてこうなるんだろうな?
俺の、修一に対する感情は根底では変わっていないのに。
俺達の関係の名前が変わってしまっただけで、何かの歯車が噛み合わなくなってしまった。
ふと苦笑を漏らす。
今までだって、俺達の歯車は噛み合っていなかったじゃないか。
なんとか噛み合わせて。
取り繕っていただけだ。
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