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その頃、捺は―――――
「話って……何?」
桜の蕾が膨らみかけている中で、捺はある人と話していた。
「……私、ずっと前から捺のこと好きだったんです!!
だから…付き合ってください!!!」
精一杯の告白に、捺は申し訳なさそうに首を振った。
「……気持ちは嬉しいんだけど、今は誰とも付き合う気はないんだ。ゴメン」
深刻な表情で謝った捺を見る女の人の瞳に、大粒の涙が溢れる。
そして目尻から頬へ、それから地面へ、透き通った雫が落ちてゆく。
「捺……
好きな人…いるの……?」
女の人は抑えようにも止まらない涙を流しながら、今にも消えてしまいそうな細い声で、捺に対する問いを呟いた。
捺は自嘲するように、儚い笑顔で微笑んで頷いた。
「片想い……なんだ。
絶対叶うはずのない恋だけど…」
女の人は、ぐっと目を擦ると、静かに去っていった。
その頼りない背を見送った捺は、ほっとしたように肩の力を抜いた。
そして、悪戯っぽく呟いた。
「実は嘘だけどねっ☆」
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