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時たま、何だかよく分からない大きな魚に乗ったニンゲン達が仲間を拐いに来た。
少年は、彼らが来る度に死力を尽くして逃げ回った。しかし毎回仲間たちの何頭かは力及ばず連れ去られていった。
けれども少年は、この広い海が大好きだった。ニンゲンは怖いけれど、カアチャン、ニイチャン、ネエチャン、それに大勢の仲間達に囲まれて、彼は幸せだった。大好物のイワシやタラも、いつもお腹一杯食べる事が出来た。
ある日の事だった。
いつものようにニンゲン達から逃げていた少年は、しばらくしてカアチャンがいなくなっていることに気づいた。
― どこにいるの?ねぇ、カアチャンはどこへ行ったの?
少年は必死になって尋ねたが、ニイチャンもネエチャンも、少年の問いには答えてくれなかった。
やがてニンゲン達は追ってこなくなり、安心した少年は海面に顔を出した。
少年がさっきまでいた所では、1頭の仲間が今まさにニンゲン達に連れ去られようとしていた。
そのクジラの背中には、ニンゲン達が投げつけた棒が何本も刺さっていて、既に逃げる力も失っているようだった。やがてニンゲン達は、ぐったりした様子のクジラを連れて、何処かへ去って行った。
その日以来、少年がカアチャンに会う事は2度となかった。
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