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なあ、知ってる?
櫻田杏って死んだんだって!
そんな言葉とそれに似通った言葉が廊下を一歩歩く度に聞こえてくる。ざわざわといつもと違う雰囲気が学校を覆う。
驚く声や悲しむ声。
同じクラスの女子は嗚咽して涙を流していた。
机の上には、花。
杏が好きだと言っていた、小さい白い花が花瓶にささってた。
俺は思わず苦笑する。
何だ?皆ふざけているのか?
こんなまるでイジメのように花まで飾って……。
「杏っ…杏っ……何でぇ…」
人一倍涙を紅潮した頬に何度も伝わせ、はらはらと泣いていたのは杏の親友の池谷結衣。こいつまで、この迫真の演技。
池谷はよろりと足元がおぼつかない様子で俺の方へ近寄ってきた。
「白川くん…どうして?」
不安を目に過ぎらせ、池谷が呟く。
「どうして泣いてないの、杏が死んだんだよ、どうして」
どうして、だって?
俺はやっと口を開いた。
「だって杏は死んでない」
「……白川くん?」
「杏は死んで何かない、一体、何の話だ……」
「しっかりしてよ…何言ってんの?杏は、杏は昨日死んだじゃない!」
「……やめろ」
「白川くん!」
「やめてくれっ……!」
何かの冗談だ。
そんなはずないじゃないか。
杏が死ぬなんて。
俺の目から、大粒の涙がぼろっと零れた。
「何も…言えなかったのに」
そう、俺の大好きだった彼女は、昨日トラックに引かれ、無惨にも俺の目の前で死んだ。
好きだよ
愛してる
…さよなら
そんな言葉も言えない程、
彼女の死は急すぎたんだ。
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