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ある夏の夜、一組のコオロギが公園の草陰で交尾をしていた。
メスの腰に必死にしがみついて羽根を震わせるオス。
生殖のため?快楽のため?人間はおろか神様にもわからない。
やがてたくましい後ろ足をひくつかせてオスは果て、一瞬の閃きを得た僧侶のごとく、草むらへ消えた。
残されたメスは大きな目を動かし、じっとしている。得体のしれない夢から醒めた赤子のように。
夜風が吹いた。
ジジと一声鳴くとメスのコオロギも草むらへ消えてしまった。
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