一話 はじまりはお姫様の声で

2/22
19389人が本棚に入れています
本棚に追加
/694ページ
☆ 安い宿で。 寝心地の悪いベッドで寝息を立てている少年が一人。 あまり役に立たない窓から差し込む朝日が部屋を包み込み、少年の顔を照らしている。 「……ん」 少年は布団の中でモゾモゾすると、寝返りを打った。 ベッドは小さいから危うく落ちそうになる。 それでもあまり気にしないようにしているのだが……。 ぼろいソファーの上で丸まっていた美しい毛並みの獣……白狐はピクリと耳を動かした。 淡い紅い色の目を開けて、扉のほうを見る。 と。 とんとん!――といきなり扉がノックされた。 「イザナ!イザナ!起きてますか!?」 扉の外から聞こえたのは鈴を転がすような声。 しかし、それはどこか苛々しているような――不機嫌な響きがふくまれていた。 「イザナ!イーザーナー!」 扉を叩く音が徐々に激しさをましていく。 とんとん!から、どんどん!!と。 それに苛立ちを覚えたのは少年――ではなく、白狐だった。 『イザナ様?マスター?お客様のようですわよ?』 心の声で。 白狐は少年に言葉を投げかける。 「んー」 少年は生返事をするだけで、起きる様子もない。
/694ページ

最初のコメントを投稿しよう!