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☆
安い宿で。
寝心地の悪いベッドで寝息を立てている少年が一人。
あまり役に立たない窓から差し込む朝日が部屋を包み込み、少年の顔を照らしている。
「……ん」
少年は布団の中でモゾモゾすると、寝返りを打った。
ベッドは小さいから危うく落ちそうになる。
それでもあまり気にしないようにしているのだが……。
ぼろいソファーの上で丸まっていた美しい毛並みの獣……白狐はピクリと耳を動かした。
淡い紅い色の目を開けて、扉のほうを見る。
と。
とんとん!――といきなり扉がノックされた。
「イザナ!イザナ!起きてますか!?」
扉の外から聞こえたのは鈴を転がすような声。
しかし、それはどこか苛々しているような――不機嫌な響きがふくまれていた。
「イザナ!イーザーナー!」
扉を叩く音が徐々に激しさをましていく。
とんとん!から、どんどん!!と。
それに苛立ちを覚えたのは少年――ではなく、白狐だった。
『イザナ様?マスター?お客様のようですわよ?』
心の声で。
白狐は少年に言葉を投げかける。
「んー」
少年は生返事をするだけで、起きる様子もない。
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