一話 はじまりはお姫様の声で

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争いが絶えない世界が嫌になって【月】に隠れたとか。 それはただの伝承のようなものだが、少女は別の理由があるのでは?と思っていた。 ただ何となく。 「さてさて」 栗色のポニーテールに百四十ほどの身長。 華奢であまり膨らみがない胸。 これでも年齢は十六歳だったりするが、まったく見えない。 目は薄いピンク色でまったく輝きがなかった。 「ここに【彼】がいるんだね?どう思う?ミラン?」 少女は門に向かいながら、自分の肩上にいる【そいつ】に聞いた。 ――白い蜥蜴【とかげ】である。 どこからどう見ても。 『我に聞くよりもクルミならわかるのではないか?【視覚結界】を使えば』 男――まだ若そうな声が少女の心に語りかけてくる。 少女はそれに驚いた素振りしら見せずに、薄い唇をへの字に曲げた。 「それが出来たら苦労しないって。 人がいっぱいいるし、うまく【気配】を周囲の人間と同じようにしている。地道に探すしかないかも」 『諦めるのか?』 「まさか。 簡単に諦めるくらいなら【仕事】を放り投げてここまで追いかけてこないよー」 少女は唇の両端持ち上げて笑う。
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