19389人が本棚に入れています
本棚に追加
/694ページ
†
「あの、少し聞きたいことがあるんですが」
そうイザナが声をかけたのは、汚れた床の上に寝転んだ男にだった。
気味が悪い男である。
年齢は二十代半ば――しかし、見た目や雰囲気からして四十歳に見えなくもなかった。
浮浪者という感じである。ボサボサの髪と無意味に生やしている口まわりのヒゲ。
やけに目がぎょろつき、ぼろ布みたいな服を着ていた。
何日も――いや、何年も風呂に入ってないのか。やけに臭う。
男のまわりには腐った食べ物が散乱していた。
通りから離れた場所、裏路地の奥まったところ。
太陽が出ているにも関わらず薄暗く、寒く感じられた。
「あん?」
男は怠そうにしながら、上体だけを起こした。
「聞きたいことだと?」
うさん臭そうにイザナを見つめる。
うん、とイザナは頷いた。
「僕は【あるモノ】を探しているんだけど。えと……名前は?」
「何でてめぇに名乗らないといけない?」
……もっともな意見だ。
お友達になるために話しかけたわけではないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!