二話 魂喰道具 Ⅰ

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† 「あの、少し聞きたいことがあるんですが」 そうイザナが声をかけたのは、汚れた床の上に寝転んだ男にだった。 気味が悪い男である。 年齢は二十代半ば――しかし、見た目や雰囲気からして四十歳に見えなくもなかった。 浮浪者という感じである。ボサボサの髪と無意味に生やしている口まわりのヒゲ。 やけに目がぎょろつき、ぼろ布みたいな服を着ていた。 何日も――いや、何年も風呂に入ってないのか。やけに臭う。 男のまわりには腐った食べ物が散乱していた。 通りから離れた場所、裏路地の奥まったところ。 太陽が出ているにも関わらず薄暗く、寒く感じられた。 「あん?」 男は怠そうにしながら、上体だけを起こした。 「聞きたいことだと?」 うさん臭そうにイザナを見つめる。 うん、とイザナは頷いた。 「僕は【あるモノ】を探しているんだけど。えと……名前は?」 「何でてめぇに名乗らないといけない?」 ……もっともな意見だ。 お友達になるために話しかけたわけではないのだから。
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