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凛とした声が響いた。大きな声ではなかったが、その声は雑音に紛れることなく聞こえた。
先ほどまで混んでいた入り口は、いつの間にか人が減っていて、私の悪口を言う2年生の集団が邪魔になって後ろがつっかえていた。そして、今、言葉を発したと思われる人が、集団を上手く避けて入口を出ていく。
出ていくときに、一瞬目が合って、心臓が飛び上がりそうなぐらい驚いた。しかし、その人は何の感情も映らない瞳を入口に向けて、去っていった。
男の人だった。
ネクタイの色から2年生だとわかる。そして、とてつもなく綺麗な顔をしていた。彫りの深い、どことなく日本人離れしている顔立ちだった。背は平均よりやや高く、細身の身体つきだ。色素の薄い髪の毛は男子にしては長く、後ろ姿では首が隠れるほどだ。日の光を浴びて黄金にもオレンジにも見える綺麗な髪の毛。
まさに…
「王子だ」
私の心を読んだかのようなタイミングで、実香子が呟いた。
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